ライフスタイルが紡ぐまちのみらい研究会の趣旨

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山口 敬太(京都大学|関西支部 ライフスタイルが紡ぐまちのみらい研究会特別委員会 委員長)

研究会の設立と経過

|研究会の設立経緯

 2020年の春、日本都市計画学会関西支部において2021年の支部設立30周年記念事業に向けて、30周年特別委員会(委員長:小浦久子・神戸芸術工科大学教授)が立ち上がり、この記念事業部会の中に将来展望部会が設置されました。これが後に「ライフスタイルが紡ぐまちのみらい研究会」特別委員会の活動として展開します。当初の体制としては、山口(京都大学)・松本(大阪大学)・野村(株式会社ヘッズ)が幹事として企画統括を行い、関西支部の若手学会員(30代前後)を中心に、10名程度のコアメンバーを集め、4月に議論を開始しました。そこで本部会の目的を、以下のように設定しました。

・ 将来の都市計画分野を担う関西の若手研究者や実務者らが集まり、都市計画に対する問題意識やその可能性、将来展望に関する議論を深める機会を設け、これを通じて相互の知的活性化を図る。
・ 分野(都市、建築、造園、土木)、地域(京阪神等)、立場(産官学民)など、境界を越えた知的交流を活性化させ、将来の関西の都市計画分野を支える人的ネットワークを構築する。
・ 関西というフィールドの利を活かした実践知の共創を図り、国内外の都市計画関係者らに広く発信する。

 これまで、20周年記念事業の際には「都市に関わる多様な働き方」をテーマに、調査や研究会が行われ、その成果は『いま、都市をつくる仕事(学芸出版社)』として出版され、それ以外にも派生して研究成果が生み出されてきました。30周年も同じように、知的刺激を追究しつつ、さまざまな人々と交流しつつ、楽しみながら進めたい、と思っていた矢先にコロナ禍に見舞われました。本研究会活動は、まさにコロナ禍とともにありました。

|研究会テーマの検討

 2020年4月7日から大阪府・兵庫県などを対象に緊急事態宣言が発出され、16日からは京都府もそれに続きました。都市・地域や都市計画の将来を展望するというミッションを得たタイミングは、まさにこのタイミングと重なります。外出自粛要請が出され、在宅勤務・テレワークが進み、働き方、時間の使い方、コミュニケーションの仕方が急変するなど、人々の価値観や社会のあり方には大きな変化がもたらされました。実際に、都市と社会を巡る問題が十年単位で早まって生じているにようにさえ実感されるなか、研究会のコアメンバーで何度も議論を重ね、研究会のテーマを検討しました。

 都市計画の将来を展望するためのテーマの設定にあたり、主に3つの視点を重視しました。
① これからの都市・地域の変化をもたらすものが何であるかについての議論を深めること。たとえば、働き方や働く場所、生活サービス、時間の使い方、人々の交流、都市の機能や空間、経済、地域圏などのありかたの変化です。
② 大都市・都心、地方都市、郊外、新市街地、農山村のそれぞれにおいて、人口減少下の都市機能の縮小を踏まえつつも、都市機能と密度を適切に再編し、地方圏域のなかでそれぞれのまちの個性を活かした共存共栄のあり方を探る。
③ 「人」の暮らし方や、人と人の関係に着目し、人間の価値観、生き方の多様化を想定するとともに、「未来にこうなる」ではなく、「未来はこうしたい」の先に、豊かなまちの姿やまちづくりのあり方の可能性を検討する。

 議論を重ねた結果、2020年7月には「ライフスタイル」の「シーン」を軸に、都市・地域のあり方、まちの姿を考えよう、ということで、研究会のテーマを設定しました。

ライフスタイルが紡ぐまちの未来

|これからの都市・地域をめぐる課題

 2040年には、15〜64歳人口が2010年比で約2〜6割(関西全体で4割弱)減少するという予測があります(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」)。これからの都市づくりに求められるのは、過去の産業構造や人口ボリュームを背景に作られた都市を受け継ぎ、人口減に対応した都市の縮小やスポンジ化を適切に管理し、住民の生活の質や都市空間の質を維持・向上させるべく、うまく再編していくことだと考えます。

 非常に困難な課題のように思われますが、第4次産業革命と称される技術革新と生産性の飛躍的向上が、これを実現に導くことが期待できます。そこで、技術革新の恩恵と、既存の都市の遺産をいかに活用して、都市・地域の持続を図るかが重要な課題となります。
 では、これからの都市・地域にどのような変化が起こりえるでしょうか。考えられることを、以下に挙げます。

・工業化時代以来の居住・就業の分化が弱まり、暮らし方や働き方はより自由に、より多様になる。
・自分に合った暮らし方が実現できるまちを求めるようになる傾向が強まる。
・地域においては、人的資本や社会的紐帯が重要な資源となり、コミュニティによるまちづくり活動を通じた生活の質の維持・向上が期待されるようになる。また、そのための拠点づくりとネットワーク形成が重要な課題となる。
・都市は高い創造性や高度知識社会の生産性を高めるコミュニケーションの場となり、特に大都市は、地方圏を牽引する拠点性をもつ。
 なかでも、地方都市、都市郊外、ニュータウン等の新市街地などが魅力的であり続けるためには、さらなる工夫が必要ですが、それぞれのまちの環境や文化資源、人的資源を活かして、日常生活圏の魅力やエリアのアイデンティティをつくることが重要な課題となると考えます。

|ライフスタイルから考える都市・地域の再編

 そこで本研究会では、個々の「人」のライフスタイルを考えることから始めました。人々の価値観や暮らし方を軸に、地域文化創造を促す都市施策が必要であると考えたからです。すなわち、個々人のこだわりのライフスタイルが共感を生み、コミュニティが育ち、広がり、いずれそのコミュニティがまちのキャラクターを作っていく。そのようなまちづくりのあり方を探る必要がある、との認識に至りました。

 各地域でどのような強みが活かした、新しい「ライフスタイル」が考えられるか。その背景にはどのような都市・地域づくりに関わるトレンドがあるか。また、それらを一見して分かる「シーン」として表現することができないか。豊かなシーンの積み重ねの上に、まちの将来像が浮かび上がる、と考えます。
 そして、それぞれの地域において、固有の風土・環境を活かした豊かなライフスタイルの実現と、独自のまちづくりを進めることが出来れば、広域圏での、地域・コミュニティ間の多様性を活かした相互補完的関係の構築が進みます。すなわち、関西文化圏の強化・創造にもつながると考えます。

「まちのみらいカルタ」づくり

|「まちのみらいカルタ」とその作成手順

 「ライフスタイル」×「都市・地域の将来トレンド」×「まちの姿」を一連で考えるための方法を検討し、その結果として、「まちのみらいカルタ」づくりによる、未来のまちの姿を描くための思考法を考案するに至りました。「まちのみらいカルタ」は以下の三つの手順で作成します。

① 2040年頃の都市・地域のトレンドを想定します。将来トレンドとして以下の10のカテゴリを設定しました。「自然/環境」「産業/経済」「土地利用」「インフラ」「技術/テクノロジー」「文化」「社会潮流」「住まい方/働き方」「コミュニティ」「制度」です。一つのトレンドを、一枚のカードとして表しました(トレンドカードと称します)。研究会メンバーが作成したトレンド例を活用してもよいですが、自ら作成してもよいです。

② ライフスタイルが紡ぐ「シーン」を描きます。技術革新により、どのような豊かなライフスタイルが生み出されているかを直感的に想像し、「こうあってほしい」未来のまちのシーンを、「言葉」(シーンタイトル)と、絵や参考写真等を用いて視覚的に描きます。同時に、そのシーンを実現たらしめる3つの将来トレンドを挙げます。そして、3枚のトレンドカードを含む、1枚のシーンカードを作成します。

③ そのライフスタイルの「シーン」が実現されている個性豊かな都市・地域の将来像を解説します。将来像の解説には、そのシーンを実現するための、都市の機能や空間のあり方と、それを支える仕組みや、都市施策、都市計画の技術・技法の提案を含めます。

 その成果は、研究会ウェブページに公開した通りです。2つのワーキングの中間とりまとめと研究会メンバーそれぞれの論考・シーンカード、さらにはアイデアコンペに入選した10作品を掲載しています。是非、ご関心のある方は、「まちのみらいカルタ」を作成し、研究会にご参加ください。

|「まちのみらいカルタ」づくりという思考法

 本研究会では、上記のような手順で、ライフスタイルがみえるシーンを参加者それぞれが描き、トレンドを蓄積しつつ、議論を重ねてきました。そのなかで、この作成方法そのものが、まちの未来の姿を描くための思考法として効果的であるとの認識に至りました。
 この「まちのみらいカルタ」づくりの手法は、実際に具体的な都市・地域の将来像を考えるにおいても有効ではないかと考えています。

 これまで(2021年10月の支部30周年記念式典での研究会成果の中間発表の時点)は、抽象的な都市・地方の枠組みのなかで議論を進めてきましたが、これからの1年は、関西地方の中から具体的な都市・地域を取り上げ、ケーススタディを通じて、都市の特性や状況を読み込んだ上での2040年の都市・地域像やそれを支える都市施策をより具体的に描きたいと考えています。 研究会に参加をご希望される方は、公開研究会にご参加いただくか、幹事までご連絡ください。

  (2021.10.18記)