個人の意思を反映できる都市/空間経営

木村 優介(京都大学)

はじめに

2040年、従来は個別に提供されていた様々なオンラインサービスが高度に統合され、1つのプラットフォームで様々なサービスにアクセスできるようになる。ここで想定する「まちづくりソーシャルクラウド」は、マッチングサービスをはじめとする様々なオンラインコミュニティと、都市のデジタルツインを生かしたARサービスという2つの情報基盤を背景に、高度なマッチングを実現するプラットフォームである。すなわち、高度なセンシング技術とリアルタイムの情報提供技術を通じて、市民一人一人が様々なスケールの問題に対して発案・支持・評価をすることができるようになり、空間活用のクオリティーコントロールや、市民の意思を反映した都市経営を進めることを可能にする仕組みである。

マッチングアプリケーション/サービスがもたらした価値の転換

uberのライドシェアに代表されるように、2010年代に様々な業態に展開したシェアリングサービスは、企業と顧客という古典的なサービス提供の枠組みを書き換えた。すなわち、スマートフォンによるマッチングアプリケーションを通じて、誰しもがサービスの提供者になることができ、さらに提供者の質が、企業の従業員としての規範ではなく、利用者からの評価によって担保されるという価値の転換が生じた。

この価値の転換とともに、手軽な起業や副業を支援するサービスが見られるようになった。例えば株式会社アドリブワークスが提供するtriven (https://www.workators.com/about)というマッチングコミュニティでは、起業したい「チャレンジャー」、それを副業として手伝う「チームメンバー」、それを金銭的に支援する「サポーター」という三者のマッチングにより、誰でも手軽に新しい働き方に従事できるサービスが提供されている。このサービスのもとで、2020年から神戸市と神戸電鉄とが「神鉄沿線モヨウガエ」プロジェクト(https://www.kobe-cube.jp)で参加型のまちづくりを目指しているように、都市空間の再編や質の向上をマッチングコミュニティで解決しようとする取り組みが進んでいる。

しかしながら、こうした取り組みが市民一人一人のライフスタイルを変えるには、次のような課題を克服し、サービスやプロジェクトに参加する障壁を下げる必要がある。まず、大多数の市民にとっては、日々活動する生活空間に関連したサービスをリアルタイムに知ることが難しく、起業や副業、各種の活動に従事することを生活の延長上に捉えることができない。このような生活空間と結びついた情報提供を行うためには、例えば地域の自治会やサークルの活動といったローカルな情報から、行政の提供する公的な情報までを集約し、個人の興味関心に応じて抽出、情報提供できるシステムが必要となる。

さらに、何らかの端末を閲覧することで情報提供が行われる状況では、例えば散歩により新しいまちの魅力や活動を発見するといった身体的感覚が伴った形でのマッチングが実現しえない。言い換えれば、ふとした日常の体験の中から新たな情報を得ることができるという、豊かな出会いの感覚に満ちあふれた都市の面白さを今後も展開させるために、例えばAR技術を用いて現実の視覚情報とデジタルの情報とを結びつけるといった新たな情報提供の手法を生み出す必要がある。

都市のDX化を基盤とする「まちづくりソーシャルクラウド」の形成

以上のような課題を解決しうるマッチングのシステムを実現するためには、都市のDX化、すなわち社会基盤として「デジタル化された都市空間」と、それに結びついた「各種の情報」、さらに身体的感覚を伴って情報を自由に引き出すことのできる「AR技術」や、空間内のモノに対する「IoT制御」が必要になる。これらもとに形成される「まちづくりソーシャルクラウド」は、以下のような機能を備えている。

  • 自治会等の地縁や行政区域を緩やかに包含しつつ、個人の興味関心を元に、行く先々で出会う人/モノ/空間の特性に応じて情報を引き出すことのできるAR技術
  • 都市空間の活用やまちづくり活動に関して気軽に提案可能で、かつ利用者や支持者からの高度な評価/格付けを可能にするサービス

これらの機能により、例えば街路上のイベントで共通の趣味を持った人と出会う可能性が高まったり、都市空間を活用する立場から企画運営の効果を事前に予測したりすることが可能となる。

まちづくりソーシャルクラウドの概念図

まちづくりソーシャルクラウドによるライフスタイル:市民一人一人の意思の反映

まちづくりソーシャルクラウドにより、とりわけ交通空間、交通結節点をめぐる空間整備や利活用のあり方が大きく変化する。例えば場所の賃貸借が時間的にも空間的にも細かな単位で実施されるようになると、いわゆる大規模な再開発を実施せずとも、事業者が統合的な空間マネジメントを実現できるようになる。このことにより、駅ビル商業施設に入居するようなテナントが駅前の旧来の商店街に入居するような「エキナカ都市」が実現する。既存の都市空間をあるがままの形で利活用できることは、モザイクとしての都市の様相を強化することにもなり、その場所に応じた体験を生み出すきっかけにもなる。

さらに駐車場の一時貸しについて、駐車場としての利用にとどまらず、期間限定のイベントや長期にわたる菜園利用など、周辺地区のニーズや利用可能性に応じて他の用途にも展開することができる。こうした用途の是非に関しては、従来の用途地域といった中長期の都市のありようを規定する制度だけではなく、ソーシャルクラウドを介した利用者からの評価/格付けというマッチングの評価の仕組みを生かすことで担保される。

このように、利活用の舞台となる空間と、空間を企画運営するサービス提供者、サービスを利用/サポートする利用者/支援者の三者が、デジタル空間と現実空間とを介してマッチングされ、さらに場所とその整備活用に関する提案と審査・評価が繰り返される。このことにより、公共的な空間の半私物化をも公式に許容するシステムが実現するとともに、市民一人一人が都市空間に対する発案者や利用者としてアイデアや気づき、意思を反映できるまちづくりが実現する。