Vol.3 「進化思考」の視座と都市の可能性
ゲスト 太刀川英輔氏

第三回は,『進化思考(=生物の進化と同じく「変異」と「適応」を繰り返すことで,誰もが持っている創造性を発揮できるようになる思考法)』を提唱されている太刀川英輔さんをゲストに迎えました.

前半では,「進化思考」の中で提示されている「変異」と「適応」の考え方をもとに,太刀川さんが実際に携わってこられたプロジェクトや取り組みのエッセンスを語りつつ,これまで/これからの都市のあり方を分析いただきました.さらには参加者との活発な質疑応答を通じて,専門領域のクロスオーバーの重要性やデジタルツインの捉え方など,都市に纏わる様々な論点と視座を提示していただきました.

後半では,前半のご講演の内容も踏まえながら,研究会メンバーや参加者が各々提案するシーンカードをもとに,「マッチング」「都市のコモンズ」「住まい方・働き方」の3つの観点から,これからの「都市のライフスタイル」像について議論しました.

以下は前半部分の太刀川さんからの話題提供の要旨です。

<太刀川さんのプロフィール>
創造性の仕組みを生物の進化から学ぶ「進化思考」を提唱し,様々なセクターの中に美しい未来をつくる変革者を育てることで,創造性教育の更新を目指すデザイナー.デザインで美しい未来をつくること,自然から学ぶ創造性教育で変革者を育てることを軸に活動を続ける.プロダクト,グラフィック,建築などの領域を越え,次世代エネルギー,地域活性,SDGs 等を扱う数々のプロジェクトの総合的な戦略を描き,成功に導く.これまでに100 以上の国際賞を受賞し,多くの国際デザイン賞の審査委員を歴任.主なプロジェクトにOLIVE,東京防災,PANDAID,2025 大阪・関西万博日本館基本構想など.著書に『進化思考』(海士の風,2021 年),『デザインと革新』(パイ インターナショナル,2016 年)がある.

-変異・適応とこれからの都市-

生物は進化の過程で「変異」し,様々なバリエーションが生まれる.そのバリエーションの中で「適応」した種は自然選択の中でさらに分化していき,多様な生態系を獲得していく.
このような“生き残るコンセプト”を作る生物の「変異・適応」と,都市・建築やモノづくりは,実は同じ現象なのではないかという仮説をもとに,これを科学的に探究するフレームとして「解剖」「系統」「生態」「予測」という4つの観点を提示してくださいました.

変化が激しい時代でこそ,今の都市がどのような状況で,どのような適応が求められているのか観察する,もしくは未来の都市を「変異(=エラー)」としてたくさん妄想する必要性が生じている,というお話が印象的でした.
例えば近年,都市計画的な観点から「都市と生態系」の関係性が盛んに議論されていますが,同様の議論が,実は生物多様性に関する専門分野では10年以上前から行われてきたことを紹介していただきました.そのような“視点の見落とし”が,将来的には都市の価値を決める可能性があること,都市に対して異なる適応を観察している人たちとの議論・協働が,都市の本質的な目的や問いに気づかせてくれる可能性がある,というご示唆をいただきました.

-協働の鍵となる都市の未来像=ビジョン-

太刀川さんがこれまで携わってきたプロジェクトとして,横浜イノベーション政策の事例をご紹介いただきました.活力があり,イノベーションが生まれ,挑戦者を応援できるような都市になるためのビジョン策定にむけて,重要なステークホルダーから意見を抽出しつつ,都市の共通のスローガンとして「YOXO(よくぞ)」を掲げたそうです.
ここでは,ブラックボックスになりがちなまちづくりのプロセスを因数分解し,ワークショップを通じて,皆で協働できるような「都市の未来像=ビジョン」を模索していかれたとのことです.「ワークショップの実施方法の工夫により,多様な人の『つながり方』を上手く演出することで,互いに違う目線でありながらも,共通の未来を見ようとする時間を設計できる」との助言をいただきました.またその合意形成においては,専門家が触媒(=ファシリテーター)として役割を果たすことで,個々の利害や立場を超えた「都市全体の方向性」という点において合意形成することができるとご指摘いただきました.

-都市における多様なコミュニティの役割-

昨今の新型コロナウイルス感染症拡大を踏まえ,今回の公開研究会のような「時間のシェア」をベースとするコミュニティの多様化が進展している点についてもお話しくださいました.様々な「サブ・コミュニティ」がレイヤーとして都市に挿入されていき,そこで得られる偶発性やつながりが,都市生活の幸福や新たな価値の発見に結びついていくとご指摘いただきました.偶然の出会い(セレンディピティ)はある種の「変異性」とも捉えることができ,都市に意図的に変異性を埋め込むことや,適応的に変異性を定常性のバランスをとることが,創造性にとって極めて重要であるというお話は大変勉強になりました.

「変異」「適応」というフレームを通して改めて都市を見つめ直すことで,都市において多様な専門性と連携することやイノベーションをもたらすことの必要性を整理することができました.また「予測性を伴った,今とは違う可能性の可視化」としてのサイバー空間の役割など,新たな気づきもありました.今後,より具体的に2040年の「都市のライフスタイル」を考えていくうえで,重要な視座をいただいた公開研究会でした.

(吉野和泰,京都大学)

スケジュール|

日程 2021年6月28日(月)
時間 18時30分~21時30分
18:30- 趣旨説明
18:40- ゲストトーク(太刀川英輔氏)
19:20- 質疑応答
20:25- カルタの紹介と都市のライフスタイル(カルタワーク&トーク)
形式 zoom によるオンライン実施(定員あり先着順)
会費 無料(事前申し込み必要

vol.3 「進化思考」の視座と都市の可能性 / ゲスト 太刀川英輔氏(NOSIGNER 代表、進化思考家、デザインストラテジスト、慶応義塾大学特別招聘准教授)
前半 ゲストトーク(太刀川英輔氏)
後半 都市における「ライフスタイル」の変化に兆しに関するディスカッション

第三回は、生物の進化と同じく「変異と適応」を繰り返すことで、誰もが持っている創造性を発揮できるようになる思考法である「進化思考」を提唱されている太刀川英輔さんをゲストに迎えます。

お問い合わせ|

主催 ライフスタイルが紡ぐまちのみらい研究会
共催 都市計画学会関西支部 30周年特別委員会将来展望部会
都市計画学会関西支部特別委員会「ライフスタイルが紡ぐまちのみらい研究会 」

ライフスタイルが紡ぐまちのみらい研究会(tsumugu.future@gmail.com)
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