Vol.1 編集者からの視点 ゲスト 影山裕樹

第1回公開研究会では、編集者の視点からまちに関わり続けている影山裕樹さんをゲストにお迎えしました。

前半は影山さんに、ご自身の取組みを紹介していただきましたが、ひとつひとつのプロジェクトが、切り口は斬新ながらも、アプローチや思考はまちづくりにとても近いものに感じられ、すぐにお話に引き込まれました。

また後半は、影山さんの講演のキーワードでもあった「コミュニティ」について、影山さんと参加者、研究会メンバーで議論を深めました。

1982年、東京生まれ。編集者、文筆家、メディアコンサルタント。”まちを編集する出版社” 千十一編集室 代表。アート、カルチャー書の出版プロデュース、ウェブサイトや紙媒体の編集・制作、執筆活動の他、全国各地に広がる地域×クリエイティブ ワークショップ「LOCAL MEME Projects」の企画・運営、ウェブマガジン「EDIT LOCAL」の企画制作、オンラインコミュニティ「EDIT LOCAL LABORATORY」の企画運営など幅広く活動を行っている。著書に『ローカルメディアのつくりかた』、編著に『あたらしい「路上」のつくり方』など。ダイヤモンド・オンラインにて「コミュニティメディアのつくりかた」、SUUMOジャーナルにて「全国に広がるサードコミュニティ」連載中。


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-メディアは異なるコミュニティをつなげるための手段である-

影山さんは、2011年の震災を機にローカル(地域)に興味を持ち始められたそうで、その後東京の出版社に勤められ、十和田奥入瀬芸術祭を皮切りに地域の芸術祭に関わる仕事が増える中、地域へは旅行・取材で数日が限界で、「観光客」という目線でしか地域に関われないジレンマやマスメディアの限界を感じ、独立されたそうです。

実際にフリーになり、数ヶ月泊ったり、一年くらい通うようになると、そこから見えてくる地域の風景は観光客目線とは全然違ったとおっしゃっていました。複数の目線を持ちながら、編集者としてまちを編集していく影山さんのスタイルは、そのような中で培われたのだろうと思いました。

著書「ローカルメディアのつくりかた(2016)」の中で影山さんは、メディアにおける東京中心のピラミッドに対して、実はローカルメディアの作り手の方がすごいという気付きから、自治体、地元企業、市民団体発行(NPO等)、個人という4つの主体によるメディアづくりのプロセスを発信されています。

影山さんは、ローカルメディアについて、「これまでのマスメディアのように一方的に発信者から受け手だけ(非対称の関係)ではなく、受け手から発信者へ相互に発信しあい交流しあうためのメディア」であり、「地域の中で分断されている異なるコミュニティ(世代、関心、政治的な主張)をつなげるための手段である」とおっしゃっていました。

紹介いただいたローカルメディアのすべてが、地域のテーマは何なのか、メディアはどのように流通させるのか、読者は誰なのか、など、具体的なビジョンのもとで相応しいメディアの在り方を追及されているものばかりでした。

また、影山さんご自身の取り組みとしても、移住を考えている人と受け入れる地域の人をつなぐためのメディアとして、「人に会いに行くスタンプラリー」を企画・実装された「平舘パスポート」など、多様な取組みを紹介いただき、編集者の視点から、メディアを手段として、「まち」「コミュニティ」を見据えていることがよく分かりました。

-まちづくりへの視座、メディアと公共空間の活用-

影山さんは、アーティスト集団「新しい骨董」として、まちの公共空間を活用したユニークな活動も行われています。その中で、多様な人が日々すれ違うが、絶対にコミュニケーションすることはない駅前や、ある一定の層の人しか集まらないショッピングモールなどの公共空間や路上に「息苦しさ」を感じたことが、著書「新しい路上のつくりかた」の出版につながったそうです。

影山さんは、メディアづくりでも公共空間の活用でも、一貫して、異なる立場にある人たちをつなぐこと、「コミュニティ」を育むことを大事にしているとおっしゃっています。ここでの「コミュニティ」とは、「排除しない、出たり入ったり自由なコミュニティ」です。

ゲストトーク後のディスカッションでも、「コミュニティ」の単位、範囲、距離感についての話や、地縁型・テーマ型のコミュニティではないゆるやかなコミュニティを多様につくっていくときにぶつかる課題の話などが繰り広げられました。

ディスカッションの中で影山さんが、コミュニティをつくっていくのには「寛大さ」、「ゆるさ」、「距離感」が大事で、メディアとしてのパッケージをデザインするときとは正反対のスキルが必要だと仰っていたのが印象的でした。

-ライフスタイルとコミュニティ-

後半では、研究会の活動の軸としている「カルタ」ワークを、公開研究会の参加者にも同時進行で行っていただき、これまで研究会でつくったカルタも合わせて、影山さんに投げかけるかたちでディスカッションを行いました。

まず影山さんが注目したのは、木密地域でのライフスタイルを描いたカルタでした。影山さん自身もオフィスも住まいも木密エリアだそうで、木密の良さはまさに「コミュニティ」であり、今後新たなコミュニティの場としてどうしていけばよいのかというのは、影山さんもまさに今考えているテーマだということでした。他にも、参加者が作成したカルタを見ながら、「コミュニティのレイヤーをもう一つつくるとよい」などのご意見をいただきました。

後半で印象的だったのは、「こういうライフスタイルをしたいと個人目線で考えがちだが、結局それはすべて、コミュニティや他の誰かと一緒にしかできないことなのではないか」という言葉です。「一人できるものは家にいてインターネットにつながっていればいい、公共空間や都市空間に作用するライフスタイルを考えると、おのずとコミュニティ目線になる、個人の体験ではなくコミュニティの体験をメインに考えたら面白いのではないか」と仰っていました。

既存のメディアのかたち、コミュニティのかたちに捉われることなく、メディアを編集し、まちを編集している影山さんのお話に、2040年のライフスタイルを考える上でも欠かせない、ゆるやかな心地よいコミュニティ、それが生まれている都市や公共空間のあり方などについて、多くのヒントをいただいた公開研究会でした。

(野村 はな)

スケジュール

キックオフミーティング(vol.1)編集者からの視点 / ゲスト 影山裕樹
15:00- 趣旨説明
15:20- ゲストトーク(影山裕樹氏)
16:20- ディスカッション
16:50- 「ライフスタイル×まち」 カルタワーク&トーク


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