デュアルライフを柔らかに受容する水辺

阿久井康平(大阪府立大学)

取り巻く現状と将来像の描出

2021年の現代、都市構造のあり方を問う議題の一つとして、居住地域や商業施設、公共施設などを高密度にコンパクトに集約し、これらの生活拠点を公共交通機関などのネットワークでつなぐコンパクトシティが挙げられる。その一方で、covid-19にみるパンデミックの感染拡大をはじめ、地震や急増するゲリラ豪雨などにより引き起こされる都市型災害は、都市構造が密な状態が要因となる側面を有することも考えられる。

こうした都市の状態・情勢に順応しながら、私たちの生活も日々進化を遂げている。学習や働き方においても、これまで対面が主流であったものがオンラインで可能になり、加速度的に進展している。これにライフ・ワーク・バランスの推進も相まって、住まい方や働き方(以下:生活)を柔軟に受容する都市のあり方の議論も新たな局面を迎えようとしているのではないか。

このような背景を踏まえ、都市構造や土地利用のあり方の議論のフィールドは陸域が主となっているが、都市河川をはじめとする水域まで拡張することができれば、約20年後の2040年の都市にはどのようなシーンが展開されているであろうか。現代の国内における水辺の利活用の実態として、河川敷地占用許可準則に基づく「都市及び地域の再生等のために利用する施設に係る占用の特例」の区域指定によるにぎわい創造拠点整備1)などの事例もみられるようになってきた。海外ではパリ・プラージュ2)のように、バカンス気分を楽しむことができる取り組みが展開され、そのシーンが風物詩になっている。

ここに、住まい方や働き方を受容しながら、水面利用の特性を活かした移動や配置の可変的な空間形成が可能になれば、土地の確保や利活用が困難な地区においても、既存の都市施策で求められる施設や用途の誘導などに対応できる素地を備えるとともに、例えばアーバン・ベース(セル、モジュール、アレイ)といったように、スケールに応じた拠点として空間に配することも可能となるのではないか。

2025年には大阪・関西万博に向けて、夢洲から京都方面に船で移動できる舟運事業が計画されているように、水面利用を主とした回遊性や観光交流が強化され、事業との連動やその後の取り組みの波及効果を模索する手掛かりとしても期待できるのではないか。

3つのトレンド

本論では、こうしたシーンを題材に、都市生活と密接に関わる3つのトレンドからその可能性を探ってみたい。

|定住・非定住を受容するデュアルライフ

二拠点・多拠点居住も含め、都市ならではの賑わい、ひとの関係性、パブリックスペースに住み、都市をシェアしながら暮らすことを選ぶことができるようになっており、水上での生活を実現する制度として、水上居留特区(以下:特区)のような制度が整備されている。特区では区域規模に応じて用途を定めることができ、現行の立地適正化計画における都市機能誘導施設や生活利便施設等の誘致にも柔軟に対応できる制度となっており、既存施設の有無による判別のみに留まらず、利用圏域や利便性などの解析技術を導入することで、画一的になりがちな都市計画施策に対して合理的に機能できる。

また、水上利用は定住せずに移動しながら生活するアドレスホッパーの受け皿にもなる。現代においてもミニバンや軽トラックを改造して生活するアドレスホッパーが存在するがその船版の展開も十分に想像できる。

近年でも二拠点生活を行うデュアラーが増加しているが、定住地を保有しながら生活に応じて場所を選択し、都市(水辺)をシェアしながらゆるやかに暮らすことができる非定住型デュアルライフも可能となるなど、定住・非定住を受容するシェアル(シェア+デュアル)ライフが展開されていることも想像できる。

|需要の時間軸に応じたアーバン・ベースの形成

水上での生活の実現に加え、オンラインコミュニティが高度化し、仕事・趣味・日常生活のマッチングが高度化し、これに対応する交流・コミュニティの拠点形成が柔軟かつ可変的に可能となる。アーバン・ベースごとに考えると、例えば大阪の中之島や大川筋では余暇を過ごす人々、ワーカーが集うコワーキング・スペースなどの小さな拠点(コミュニティ・セル)、淀川では芸術・文化、交流などの都市機能を有する拠点(アーバン・モジュール)、琵琶湖では水上商業街や水上都市(アーバン・アレイ)の構築などが想像できる。それぞれが需要の時間軸に応じたアーバン・ベースを形成することが可能となる。

また、特区や空間のマネジメントにあたってはエリアマネジメント団体による運営管理や、時間軸に応じて利用料を徴収するなどの方策も考えられる。

|都市デザインのニューラル・イノベーション

水面利用による暫定的土地利用が可能となり、陸域での大規模開発が不要となる。ここに、DXが変革を極め、ビッグデータ解析を踏まえた地域の利便性、地域における施設の充実度、快適性や経済性などが評価指標に基づいて評価、リアルタイムで視覚化されることで施設や用途の誘導に係る計画技術に直結している。こうした都市状態の指標が構築・可視化され、市民にも共有されるテクノロジーが確立されており、人々の生活の選択肢を支えている。また、生活を支えるシステムの一つとして循環型再生可能エネルギーが標準化している。現代では、再生可能エネルギーだけで世界一周を目指す船「エナジーオブザーバー」の実験が成されるなど、低炭素社会の実現に向けた取り組みが進んでいるが、環境負荷なしで太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利活用した発電や航行時に水浄化を可能とするテクノロジーの完備、AIを駆使した航行や配置のオートメーション化が確立されているなど、インプットからアウトカムに至る都市デザインのニューラル・イノベーションが成熟しているであろう。

フランス・ナントにおける風景(筆者撮影)
パリ・プラージュ2)

参考文献

1) 例えばTUGBOAT TAISHO:https://tugboat-taisho.jp, アクセス日:2021年9月6日
2) MIZBERING HP:https://mizbering.jp/archives/22430, アクセス日:2021年9月6日