価値観をベースにつながり拡張していく都市/活動

橋本 晋輔(地域計画建築研究所)

はじめに

まちなかには地域の文脈から生まれた、個性的でいい雰囲気のエリアはたくさんあり、特に都市部は少し歩くだけで雰囲気が目まぐるしく変化する。いい雰囲気のエリアは様々な地域に点在しており、その雰囲気を「いい」と思う人が集まり、お互いが顔の見えるコミュニティを形成していることも多い。一方で、郊外の大型商業施設に行くと、休日には多くの人がチェーン店で買い物をしており、顔の見える関係とは対極の世界が広がっている。

まちのよさが人により大きく異なる中で、「まちのよさがつながり「はしご」ができる暮らし」が実現する都市や活動の姿を示す。

人々の行動の姿

|よりパーソナルな行動提案が行われる

google mapでの「あなたへのおすすめ」機能、AIによる行動提案機能など、様々な情報を、個人の好みなどに応じて取捨選択し提案する機能が広がりつつある。その人の価値観からマイブーム、今日の体調まであらゆる観点を総合的に評価して、AI技術の発達やセンシング技術によりパーソナルでニーズにあったリアルタイムな行動提案が行われるようになっている。

| ニッチでローカルな魅力に光が当たる

地域にある小さな店は、安さ、品ぞろえなどでは大型店舗にある全国規模の店には負けるが、その店主の個性が感じられる品ぞろえやサービスが展開されている。そのようなニッチでローカルな魅力は、何回も足を運ばなければわからないかもしれないし、特定の価値観の人にしかわからない部分があるかもしれない。しかし、そのような魅力が評価され大切にする価値観が共有される社会になっている。

パーソナルな行動提案によって、ニッチでローカルな魅力をより多くの人が体験できるようになっている。

 |移動抵抗が低下している

魅力的なエリアやお店は必ずしも駅の近くにあるとは限らない。また、住まいの周辺に個人の嗜好に合致するエリアやお店があるとも限らない。自動運転技術の発達により、行きたいところにストレスなく移動できる環境が整い、移動することによるハードルが低くなっている。

|まちを楽しむ行動・文化が根付く

家族で外食に行ったとき、ちょっと川沿いの店でお茶をして帰ろうなどと、次の行動につながることは少ない。パーソナルな行動提案が進むことによって、ある目的の外出の際に、ついでにいろいろ楽しむ、まちを楽しむという文化が広がっている。

個性的な界隈の姿

|各エリアの個性が際立つ

いくつかの魅力的なお店はそのエリアのイメージを形づくる。ローカルな魅力に光が当たるにつれ、エリアとしての個性が高まり、その個性に惹かれ新たなに同じようなテーマや価値観のお店が集まる。それによりそれぞれのエリアの個性が際立ち、面白いと感じられるエリアが増えている。

新たな出会いの創出

|まちの編集者により新しいまちの楽しみ方が展開される

人々はそれぞれの暮らしの中で、お気に入りの店、お気に入りの店主など、独自のお気に入りマップを持っている。パーソナルな行動提案により、人々の行動は自身の価値観などをベースに、よりニッチ化が進むことが想定される。

一方で、まちの楽しみは、予定調和ではない新たな出会いや新たな体験ができ、自分自身の世界が広がるというところにもあろう。それは、自分自身の価値観などをベースにした行動提案では難しく、誰かが新しい視点を提案しなければ生まれない。新たなライフスタイルを提案する雑誌の編集者やショップのオーナーのように、より細分化された人々の価値観に応じて、いろいろな世界をつなぐ役割の人が多く生まれ、新しいまちの楽しみ方が展開されるようになっている。